妻が当て逃げにあいまして





仕事中、とあるスーパーの前を車で通りかかった時のことでした。


駐車場にはパトランプを回した警察の事故処理車が止まり、周辺には若干名の人たちが見えました。

誰かが駐車場内でぶつけ合ったのでしょうか。いやー、寒いのに大変だなぁ、と思っていましたが、よーく見るとパトカーの隣に止まっているのが妻の車にそっくり。


 


え・・・まさか・・・!?

いやいや、こんな見計らったようなタイミングをで事故ってるわけありません。妻の不倫現場を自分で目撃しちゃうくらいありえません。

ふと浮かんだ不吉な考えを打ち消し、その場は振り返らず先を急ぎました。







そして、現場で仕事をしていると携帯が鳴りました。

まさか・・・と確認してみると、悪い予感が的中し、A氏からのメール。









恐る恐る携帯を開いてみると・・・・









 








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「お」じゃねぇんだよ、「お」じゃ!!


緊迫感ゼロ。それと同時にこの様子なら大事には至ってないだろうという安心感はありました。しかし、親子揃ってよくよく駐車場でトラブルに巻き込まれるもんです。





仕事を終えて帰宅すると、真っ先にA氏の車の様子を拝見。
凹みなどはほぼないものの、後部バンパーに長い擦り傷が・・・。
相手の車の塗料でしょうか、黒いラインがしっかり残っています。


家に入ると、何事もなかったような顔でこまちを背負ったA氏が料理を作ってくれていました。


「いやぁ、災難だったねぇ」と、一声かけると同時にメールの『お』について突っ込むと、これからの車の修理について話始めました。



普通、当て逃げともなると犯人なんてまず見つかることはありません。
警察に実況見分してもらっても、人が大怪我でもしてなければ、まず犯人探しなんてしてくれません。

よって、車の修理はどうしたって自費となってしまいます。かー、この年末にきて出費がかさむなぁ・・・






しかし、A氏はあっけらかんと「あ、車ね、直りますよー」と言い放ちます。
そんな当て逃げ事件があるのでしょうか?金でも拾ったのかと事の経緯を問い質しました。









ここで話は数時間前に戻ります。




夕方、近所のスーパーで買い物を済ませ、車に乗り込もうとしていた時のことでした。
辺りはすでに暗くなっており、忙しそうに夕飯の支度のために買い物に行きかう人々の顔もうすらぼんやりと見えづらくなっていました。



しかし、そんな中でも妙な視線を感じるので、周囲を見渡すと、こちらの方をチラチラと見ている20〜30代くらいの不審な女性がいることに気づきました。

向こうもこちらの視線に気づくとスーッとA氏に近寄ってきて、急にわけのわからない忠告をしてきました。







「あなたの後をね・・・・さっきから、不審な男がついてまわってますよ・・・気をつけたほうがいいですよ・・・」と。


   


あんたが一番不審だよ!と突っ込むわけにもいかず、その場は「気をつけます」と言って車に乗り込みました。








家までの帰り道、A氏はさっきの女性の不審さよりも、ストーカーへの恐怖心よりも、男に追い掛け回されるなんて子持ちの自分もまだまだ捨てたもんじゃないなぁという優越感に浸っていました、バカだから。


 
     









そして、家に到着し、すぐに買い物袋の整理を始めた途端にインターホンが鳴ります。





はっや!!ストーカーもうきた!!!

このタイミングですから、スーパーからストーカーを無事連行してきてしまったとしか思えません。

さすがにこうなると優越感もクソもありません。



  ピンポーン



  ピンポーン



  ピンポーン





幾度とも無くインターホンが鳴らされ、居留守は完全にばれている模様です。

埒が明かないので、意を決してドアについているレンズを覗き込んでみることにしました。

   





しかし、ドアの向こうにいたのは、見ず知らずの30代と思しき普通の女性。
さきほどの忠告の内容からして、てっきり脂ぎったストーカー野郎かと思っていただけにとんだ肩透かしです。







握りこんだゴルフクラブを玄関に置くと、ドアを開け、その女性に用件を尋ねました。


すると女性は興奮気味に「私、見たんです!!」と、デジカメをズイッと目の前に出してきました。

「さっきまでスーパーにいましたよね?あなたの車、そこで当て逃げされてますよ」

   


デジカメの画面には、A氏の車の後部バンパーが映し出されています。そこには黒い筋のような擦り傷がはっきりと見て取れます。

さらには、犯人と思われる黒い車と、そのナンバーまでしっかり写りこんでるではありませんか。


話によると、この女性はたまたま現場を目撃した後、その場でA氏に話しかけるチャンスがなかったため、わざわざA氏の車を追跡し現在に至ると言うのです。



何でここまでしてくださるのかと理由を聞くと、以前に自分も当て逃げされ、非常に悔しい思いをしたことがあり、ここぞとばかりに追跡までしてくれたそうです。




その後、写真まで現像してくれるという気の利きよう。以前にどんなレベルの当て逃げをされたのでしょうか。ストーカーと間違えて、ゴルフクラブでドタマをフルスイングしなくて本当によかったです。


お礼に北軽井沢からもらった白菜を二つお渡しし、すぐさま警察に連絡を入れました。





そこからはとんでもなく速い流れで、警察署の方がナンバーから容疑者を割り出し、すぐさま全員で現場(スーパーの駐車場)で実況見分が行われることとなりました。



現場にたどり着くと、もうすでに容疑者と思しき2名が警察官にえらい剣幕で怒られているという修羅場となっていました。







そして、いよいよ当て逃げ犯との面通し。

どんな面してやがんだ、このストーカー野郎がー、拳を握り締めながら意気揚々に参戦してみると、どこか見覚えのある顔が・・・・











ついさきほど、スーパーで変な忠告してきた不審な女性でした。

   


いやいやいや、ナニコレ!?何のために「ストーカーが・・・」とか言ってくれちゃってんの!?



隣にいるのは女性の父親らしく、平身低頭で謝罪してきます。


話を聞いてみると、女性はA氏の車にぶつけた後、すぐに現場から去らず謝るチャンスを探していました。
しかし、本人を目の前にしたら、うまく本題を切り出せないまま、わけのわからない話をでっち上げてしまい現在に至る・・・というのが事の真相でした。




その後もあまりにも過剰に謝り続けられるもんですから、A氏も居た堪まれず変なフォローまでしてしまう始末。




同じことしちゃ駄目だろ。


基本的には良い人なのでしょうが、逃げちゃったのは完全な選択ミスです。
大した傷じゃないんだし、修理代だってそんなにかからなかったでしょうに、逃げちゃったばかりに公衆の面前で警察官にえらい怒られるという恥辱のショーを提供することになってしまいました。

きっと、これを見た他の主婦の方々の夕餉のおかずになっていることでしょう。








・・・・というわけなんですよ」

ここで、やっとこさ当て逃げの話が終わりました。
自分も当て逃げされたことが3回ほどありますが、全部泣き寝入りしていただけに、今回の件は嘘みたいに幸運に恵まれていました。

わざわざ教えてくれた人はもちろんのこと、ぶつけた人も基本的に善人でしょうし、変な言い方ですが、人に恵まれた当て逃げ事件でした。





で、後になってわかったのですが、ぶつけた人は後で直接謝りに行こうとしていたらしく、スーパーからA氏の車を追跡していたため、A氏がいい気になって帰宅している最中はとんでもない隊列が編成されていたとのことでした。

    
 





ちょっと不思議な当て逃げ事件も、特にぶつけた人が罪に問われるようなこともなく、無事保険を使ってきれいさっぱり直るとのことで一件落着。めでたし、めでたし。








・・・ということで終わらず、ここに貪欲な女が一人。



前にオレが食あたりした時もそんなこと言ってなかったけ?







おわり









2011.9.24