渋温泉旅行記




2009年3月 9日(月)の詩咽

渋温泉旅行記@

先日、長野県は渋温泉というところにA氏と行ってまいりました。

この渋温泉というところの売りと言えば、「古い建物」「狭い路地」「石畳」、そして「無数の公共浴場」ということだそうで、骨董的な雰囲気が好きなオレはふらりと足を伸ばしてきたのでした。

まず宿泊する旅館そもそもが、国の重要指定文化財になっている時点で、旅館内の散策のみで旅が終結してしまいそうなんですが、外にある「九つの外湯めぐり」というのもやはり外せません。

しかも、九つ入ると願いが叶うとか叶わないとか、押したとか押さないとか、触ったとか触ってないとか言われているようです。





というか、これ見よがしに一番湯と言われている公共浴場が庭を挟んで、目の前にあるんですよ。さらに入っている人の声が聞こえるんですよ。


これは入るわけにはならんだろう・・・ということで長湯の旅の幕が切って落とされたのでした。


つづく
















2009年3月 10日(火)の詩咽

渋温泉旅行記A

一人で九つも回っていると寂しいから一緒に行こうぜ!と、A氏を誘い出そうとするものの、「旅館内に6つも7つもお風呂があるんで行かないです」と断られてしまいました。それが正論だと思います。

オレ自身もすでに2つの風呂を満喫したあとだったのですが、冷蔵庫の壜ビールもゆっくりと一本やっつけた後でしたし、何よりA氏と無料の卓球場でガチンコ卓球をした後だったので、体もお湯を欲していたのでした。

このアマっ子がオレのサーブを8割がたスマッシュで返してくるという豪腕ぶりを見せつけなければ、こんなに汗だくにならんで済んだのに。


涙を見られないようにして、手ぬぐいと日記帳と筆袋をもって旅館をあとにしました。




あたりはもう真っ暗で、少し残った雪が道の傍にあり、部屋から丸見えだったこの一番湯から漏れる湯気と相まって、「温泉郷」という雰囲気を強めていました。


サイズこそ大きくはありませんが、街の雰囲気を壊さないように建てられた木造建築の一番湯は古めかしく、通称「初湯」とも言われています。

ちゃんと風呂は男女に分かれており、混浴ハンター、混浴インディ・ジョーンズと異名をとるオレは若干の物足りなさを覚えました。


この温泉に入るためには、旅館に備え付けてある鍵が必要でして、公共浴場なのに自由に出入りすることは許されていません。ちょっと変わってますよね。

宿泊客でなくとも、受付をやっている旅館に聞けば、500円くらいでこの鍵と手ぬぐいをもらえるようです。
  


中に入ると、普通の家庭のお風呂より多少大きいといったタイル貼りのお風呂。外見ほどには風情はないかもしれませんが、天井も高くて気持ちはよかったです。



気持ちよすぎて、一番目からゆったりとしてしまいましたが、これが後になって尾を引いてくるとは誰が予想したでしょうか・・・



つづく
















2009年3月 11日(水)の詩咽

渋温泉旅行記B



このハンコがそれぞれの共同浴場の前に設置されています。
これは、一番湯のものなので、「壱」という漢字に通称である「初湯」の初が白抜きで浮かび上がっていました。

何だか久々にこういったスタンプラリー的なことをやったなぁ。




この「壱」のハンコのほかに、炎のマークみたいなハンコが別に用意されているため、2回押印する必要があるのですが、いきなり炎の紋章が見つからず大人気なくパニックに陥りました。


本来であれば、これを専用の手ぬぐい(ちゃんとハンコを押す枠が印刷されている)に、順番に押していくらしいのですが、唯一一本だけ持っている手ぬぐいに押してしまうわけにはまいりません。






とりあえず日記帳は持参してますんで、そちらにポチンと。

ただ、これが最後にあんな大惨事を招くとは誰が予想しえたというのでしょうか・・・・・・・



つづく















2009年3月 12日(木)の詩咽

渋温泉旅行記C


今回、いつも以上に絵が汚いのは、お湯とお湯とのインターバル中に一発書きしているためです。その分、ライブな感じを出していると勝手ながらに思っているんですけど、どうでしょうか?そうでもないですか?


一番目でちょっとゆっくりしてしまいましたが、ハンコが落ちて見つからない事件の影響もあり、すっかり体が冷えてしまいました。

2番目のお湯は笹湯と呼ばれる温泉です。
最初のときと作りはほぼ一緒ですが、ケロリンの黄色い桶を見つけてなんだかちょっと一安心。




そして、お湯の感想なんですが・・・熱いィィィィィィ!!!!!!

ここの温泉は基本的にかけ流しで一見非常に豪勢な話なんですが、とにかく熱い源泉がそのままずっと流れ込んできているため、放っておくととんでもない温度になってしまいます。





で、さっきのときもそうだったんですけど、公共浴場なのにずっと一人風呂ですし、それ以前に誰かが入った形跡もありません。
とはいえ、水で薄めている時間ももったいないし、「3分だけ肩まで入れたらこの温泉を満喫したことになる」という自分ルール決めて入ってきました。

どうせ誰も入ってこないだろうということででかい声で数を数えます。


水で薄めながらとはいえ、上がる頃には肌が溶岩みたいな色に変色していて、次のお湯に移動する間に水分補給を余儀なくされました。





こんなペースであと7つも体が持つんだろうか?



つづく

















2009年3月 13日(金)の詩咽

渋温泉旅行記D

ようやく3番目のお湯に到達。そして、ここで初めて他の人と遭遇しました。

地元のおじさんと中学生の二人が先客として入ってくれていたため、お湯の温度もちょっと熱いくらいでした。
タイル貼りでそれほど大きくないお風呂だったため、3人も入るとお湯のかさが上がり、モザーとお湯が流れ出していきます。

お湯を大量に無駄にしてしまったことになんとなく気が咎め、「すみませんです」という言葉が口をついてしまいました。
地元のふたりは軽く会釈をしてくれましたが、地元の人にしてみると黙っていてもワンサカお湯が出てくるわけで、「お湯もったいない!」という一般人兼貧乏人の自分の気持ちをどれだけ理解してくれるのかとふと思いました。

  




「湯めぐりしてるの?」

いかにも観光客という雰囲気を感じ取ってくれたのか、おじさんが話しかけてくれました。いや、それともすでに溶岩色に変色しているオレの肌を見てのことかもしれませんが。


いやぁ、さっきまでお湯が大変熱く、自分ルールである3分を守るのが大変でしたよ、なんなら誰が見ているわけでもないし短くすることもできたけど、それをやっちゃうと一体これからオレは何を信じればいいのかわからなくなってしまうし、そこだけは芯を通していきたいのですよ、そう、今までもしてきたようにね・・・すみません、こんな話しても退屈ですよね・・・うんぬんかんぬん的なことを話していると、おじさんは簡潔かつ的確なアドバイスをしてくれました。





「そんなにゆっくり入っていたら九つも入りきれないよ」と。


ごもっともです。





つづく












2009年3月 14日(土)の詩咽

渋温泉旅行記E



 

おじさんの予告どおり、5件も連続して入るってのは体力的にもかなりきつく、自分自身が蒸し料理みたくなってきました。今ならさぞかし芯までホックホクなことでしょう。
9件入ったかつきには、オードブルとして旅館で取り扱ってはいただけないものでしょうか?



その後も人に会うこともなく、当然女風呂から人の気配もすることもなく、いるとすればリアルお猿さんくらいのものでした。

 

この渋温泉のもうちょっと上には地獄谷という場所があり、野生のお猿と一緒に温泉に入れるそうです。で、そのお猿さんたちが山を降りて、今この温泉街に猿害をもたらしているということは、昨今のニュースでも目にしたことがありましたが、眼前に犬猫と同じように佇まれると結構プレッシャーを感じます。


このため、温泉街の飲食店や土産物屋さんは食べ物を店先に出すことができず、かならず戸を閉めたうえで奥に配置しているところがほとんどで、いろいろとお店側も苦慮しているようでした。


群馬の草津温泉なんかですと、道を歩いているだけで否応なしに温泉饅頭を食わされるだけに、その対応の開きがなんともおかしく感じました。


  


つづく
  










渋温泉旅行記F


いやぁ、こう何回も連続して風呂に入っていると、頭がゆだってピータンみたくなっているせいなのか、例のハンコの一つや二つは押し忘れてしまうもんでして。




着崩れた浴衣をバタバタとはためかせて、日記帳をハンコのページにしたまま走って戻るようなこともありました。


温泉街の広さからして、温泉と温泉のj距離がとても近いのが幸いしまして、後戻りするといってもわずか数十メートルとかで済む場合もあるわけです。



そんな中、もう正直服を着るのも面倒くさいくらいの距離の温泉もありました。




民家を2,3軒挟んで、次の目的地が見えているんで、こうなるとフルチンでも大丈夫なんじゃぁないかと。あとは、その2,3軒の民家の家族にさえ見つからなければいいわけで、ここで日ごろ鍛えた健脚を活かせばいいんじゃぁないかと。


まぁ、捕まったらこの後のお風呂に入れなくなるんで、止めておきましたけど。

でも、パンツを履かずに浴衣のみで移動というノーパン党の人みたいなことはしてきました。


  

つづく







渋温泉旅行記G


いくつか回った中で、ここだ!という温泉がありました。
それは6番目にある目薬の湯というところでした。ここは完全木造造りなんですが、やはり木は雰囲気と匂いがいいです。



それに湯船の広さもあり、湯めぐりなんぞせずにここだけ入るという方も結構いるようです。その割りには女湯から声が聞こえないのにちょっと不満が残りますが。

しかし、こう雰囲気あると、同じお湯でも「入ったぁ!」という気持ちがしますわな。
でも、ここの渋温泉の外湯のすごいところは、全部かどうかわかりませんが、ちょいちょい源泉が違うようでして、それぞれに効能が違うんです。

ちなみにjこの目薬の湯は名前のとおり、目に効くということが売りの温泉で、お湯もかなり白色が強いようでした。確かにここまで入ったお湯は透明なところが多かったもんなぁ。




と、お湯と造りの雰囲気にうっとりとしていていますと、ハラリと一枚しかないタオルが湯船に落ちてしまいました。






ここで、オレの湯めぐりも潰えてしまうのか!?
果たして、本当の願いごととは!?
次回「願い事は湯煙の先に!」に乞うご期待!



普通に絞ってから体拭きました。




つづく










渋温泉旅行記H




タオルがややびっちょり気味になってしまいましたが、気にせず続行です。




7番目のお湯で知らないオジさんと一緒になりました。知っているオジさんがいたらそれはそれで面白いんですけど。

オジさんもオレと同じ旅行者で、現在湯めぐり中とのこと。
ただし、ハンコも何も押さずに適当に回っているそうで、見たところまだそんなに体力を消耗しているようには見えませんでした。


何となく風呂を出るタイミングも一緒だったため、次の八番目の明神の湯までご一緒しました。

この湯めぐりも佳境に突入したわけですが、いかんせん八番目ともなるといい加減時間帯も遅くなってしまい、他にお客さんなんぞおりません。
当然、街を歩く人なんかも全然いなくて、時折感じる気配もきっと野猿のものでしょう。


そして、こうなるとただ一つの弊害は「異様にお湯が熱い」ということのみです。誰も水で薄めてくれんですからねぇ。

八番目の明神の湯がどんなお風呂だったのか、という記憶と印象をすべて消し去ってくれるくらいお湯が熱かったです。



   


3分数えるのもあやふやでもしかすると1分くらいで出てしまっているかもしれません。もうとにかくあやふや。あともう少しあやふや度が増してくると湯船の中でオシッコもしかねません。


そして、どグロッキーになりつつもラストのお湯を目指します。
オジさんはもう少しぬるくなったら入るということなので、ここでお別れです。



つづく







渋温泉旅行記I



ふらついた足取りで辿り着いたラスト9番目の温泉は、自分の旅館の目の前にある「大湯」です。

こちらはサイズ的には最大、さらに木造テイストのお風呂であることから一番人気のお風呂です。日帰り、さらにお急ぎの方であればこちらに入るだけでも十分に満足できるかと思います。


今までの家庭風呂プラスαとは比較にならず、銭湯くらいな広さは十分にあるでしょう。

注ぎ口から流れ出る白濁としたお湯は予想通り熱いですが、やはり多く人が入るところだけに湯船は適温です。
まぁ、しかしいつもどおり一人ぼっちでしたが。



そして、この大湯で特筆すべき事柄はもう一つあります。

 

それは天然温泉サウナが公共浴場についている、ということでしょう。今まで無料で入れる公共浴場に数多く入ってきましたが、こういった天然サウナがついているところは初めてでした。



最初はそんなもんがついているとは露知らず、普通にトイレの入り口くらいに思っていたのですが、後から来た親子連れの子どもがそのドアに興味を示し始めたのが運のつきでした。

   

黙れ5歳児!!


こんなの見つけてしまった日には、ここまで3分入らないとクリアした気がしないじゃないですか!?
罰ゲームとして、この5歳児を小脇に抱えてサウナに3分入りたい気持ちをグッと堪えて、一人でinサウナしてきました。






と、いうわけで9つすべてのお湯+サウナをクリア。


温泉て本来そういうもんじゃないよね?という周囲の人間からの忠告もありましたが、いいんです、そういうの好きなんです。


風呂に入るのには体力がいるってのは知っていましたが、今回はギネス級に疲れました。
そら、あの短時間にこれだけの風呂に入れば当然のことでしょう。しかも、こんなことをしても誰も褒めてくれません。

ただ、「やってやった!」という満足感と、日記がハンコで埋まった充足感だけは温泉の暖かさが体に染み入るのと同じように、ゆっくりと心巡るのでした。



あとは、宿で待つA氏への報告だけです。

3番目で地元の人と話をしたよ、6番目のお湯だけでも入ったほうがいいよ、途中から知らないオジさんと回ったよ、話す内容は尽きることなくありました。

あちらはあちらできっと宿内での様々な発見や驚きがあったことでしょう。


部屋に戻ったらまずビールの口を開けて、それからいろんな話をしよう、そう思って部屋の襖を開けました。





  


 A氏すでに寝てました。



お陰でイラストいっぱい書けました。











渋温泉旅行記 エピローグ





      ※実際には日記帳に押してます


9つハンコを集めたとて、そういったアトラクションは残念ながらありませんでしたが、「9つのお湯に入ることによって苦(9)労を落とす」という裏コンセプトは全うできたんじゃないかと思います。


昨晩のうちに一発書きの小汚いイラストを20個ほど書き上げ、泥のように寝たおかげで目覚めは悪くありません。


で、翌日は早朝から街中を散策を開始しました。明るくなってから見る町並みはまた全然違ったものに見えて、気づかなかった階段や細い小道などもたくさん発見しました。

何たら薬師とかが複数、斜面の中腹にありまして、これらも一から巡っているとまた時間を喰ってしまうため、一番でかそうな神社を目指しました。


ちょうど昨日最後に入った大湯の真上あたりに狸の置物のある温泉神社がありました。せっかくですからお参りしようと壇上にあがりお賽銭を入れました。

するとそのすぐ右横に、めぐり湯のところにあったものより一回り大きいハンコを発見。



左上のが通常の炎の紋章で、左下のがこの薬師さんとこの紋章ですな。

こうして見ると明らかに薬師さんのはデラックスでかい。
このデラックス印を逃したら大損こいた気分になるところでしたよ。

一度階段を下りて回り込んでから、どんなときでも持参している日記帳にパツーンと押印。


やー、やってやったわー、と感慨もひとしきりしてますと、その奥に見てはならないものがありました。






例のタオルつーか手ぬぐいが神社の脇に縛り付けられていたのです。しかもほとんど全部マス目に押印済み。

なんかよくわかりませんが、押印後はここに奉納することによって満願成就♪ということなんでしょうか?
違うよ、思い過ごしだよ、と誰かに言ってもらいたいのですが、A氏はさくさくと階段を下りてどこかへ行ってしまっています。

もう一度全部入りなおす?という選択肢もなくはないのですが、この疲れている体でそんなことすれば、苦(九)労を落とすどころか命を落としかねません。

もう一つは日記帳をここに奉納するという手もあるにはありますが・・・・。(もっとも神社側も迷惑でしょうが)





どうにもならないので、ふて腐れて足湯して帰りました。





何だろう、この得も知れぬ敗北感は・・・。





おわり