キャンパスライフ 第10話 




木や石との仮想デートを日々繰り返し、その寂しさを紛らわすカービーですが、ある日それらは代用品でしかないことに気づいてしまいました。いや、最初から気づけよ。


           


石や木では語らいができません。
もっとこう生きているもの同士の触れあいや、ぶつかり合いみたいなのが欲しい!生きているって実感が欲しい!今のカービーは死んでないだけ、生きながらえてるだけであり、そのために必要なものは何だろう?ってことで、それを積極的に探し出すことにしました。



それはほんのちょっとしたきっかけでした。

いつものように食糧を探しに山を歩いていると、足下にあったちょっとしたへこみに足を取られました。こんな誰も踏み込まない山の中ですから、へこみだの突出部だのは何も珍しいことないんですが、そのへこみは少し違うようです。



柔らかな土の部分にずっぽりと埋まったであろう動物の足跡だったのです。しかも、そのサイズたるや今まで相対してきた森の動物たち(うさぎや猿)とは比べものになりません。


まだ出会ったことはありませんが、この足跡から想像するにかなり大きな動物・・・おそらく森の王様「熊」に他ならないでしょう。もしくはパンダ!


普通、「そう遠くないところに熊がいる」となれば、戦々恐々とし、熊に出くわさないように祈るか、そのための工夫を凝らすことでしょう。



しかし、やはりというか我らのヒーローは違いました。

何を始めたのかというと武器の新調です。もともと持っていた鉈(なた)を改造して手製の薙刀(なぎなた)を作りました。これで、リーチの長い敵にも対応が可能に!ってバカ!


逃げるか、罠でも作るのならまだわかるけど、正面切らなきゃ使えないもん作ってどうするのよ!


「いや、熊でもいいから遭いたかったのよ・・・」




生きている実感をそこに求めたか。
ここから彼の生きる目標が「熊斬り」になったのは言うまでもありません。勝てる勝てないは二の次、寂しさが埋められれば何でもいいのです。




そして、昼間は畑仕事と狩り、夜は熊探索というよくわからないフィールドワークが始まりました。

狩人として必要な猟犬や銃の一つもなく、ライトと改造薙刀を片手に夜の山を練り歩くカービー。オレは、これだけの軽装で熊と対峙しようとする人間を範馬勇次郎(※)以外に知りません。

※素手で巨獣を屠ることができる地上最強の生物。
通称「オーガ」



しかし、人恋しくて練り歩くカービーですが、今のこの姿は人に見せられるものではありません。こんなリアル八墓村みたいな人と山で遭おうものならダッシュで逃げます。ある意味、熊以上の衝撃を与えうる逸材です。

      







そんなこんなで数日。

しかし、蛇だの小動物に出くわすことはあっても、お目当てにはなかなかぶつかることができません。

先日の足跡の現場を頼りに付近を探してみますが、それといった手がかりも見つかりません。木の幹に熊の爪痕でもあれば、そこは熊の縄張りということとなり、またそこを中心に探せるのですが・・・。


と、その時です。


モサ・・・モサ・・・と落ち葉を踏みしめる音が聞こえました。
その踏みしめる音は小動物のそれと違い、しっかりとした重厚感を感じ取ることができました。パ、パンダ!?


どうやらこちらの明かりに反応して近づいてきている様子です。
が、しばらくするとその足音が消えてしまいました。向こうもこちらに気づいて警戒しているのか、動きを止めたようなのです。


単に明かりに興味を示して近寄ってきたのか、それともこちらを獲物として見て様子を窺っているのか…はたまた、向こうも寂しくて友達を求めてるのか…てバカ!

向こうの考えてることなんてわかるはずもありません。そもそも草むらの奥に何がいるのかさえわかっていないのに。


まずは音のした方向に注意を配りながら、周りの状況を確認します。
歩いているところは細い山道。足下は土に落ち葉が少々、傾斜もありますが気になるほどではありません。

が、しかし決定的にマズイ事が一つ。
すぐ後ろが崖なのです。

      



本気で動物が襲ってくることを考えると、この場所はあまりにも不利。途中の木にでも捕まれればともかくですが、落ちれば無事には済まないでしょう。まさに背崖の陣です。


萎縮しながらも妙な興奮を覚えるカービー。初めて餓死以外の生命の危機を迎え、脳内のアドレナリンが噴出しているのです。


薙刀を身構えながらライトを振り、周囲への注意を続けます。しかし、木が生い茂る原生林ではそう遠くまで光は届きません。


向こうに動く気配はがない以上、うかつに動くことができません。
動物に対し、「動いたら負け」という極限の勝負を挑まれることになったカービー。緊張から薙刀を持つ手が汗で滲みます。時間にしてわずか数十秒間がとんでもなく長く感じます。




そして、いよいよ局面が動きました。


バサバサッ・・・パキッパキッ・・・



向こうが焦れたのか、葉っぱと木々が揺れる音とともに、地面に落ちた小枝を踏み折る音が聞こえます。その刹那、巨大な黒い塊がが草むらから勢いよく飛び出してきました。

    



すぐさまライトをそちらに向けると、巨大なカモシカ(だと思う)がこちらに飛び込んでくるのがわかりました。

その勢い、その巨大さに圧倒され、「なんだ、熊じゃなかったんだ・・・」と思う暇もなく、カービーはその場にへたり込むように腰を抜かしてしまいました。


このままカモシカに体当たりされれば、オレはどうなるんだろう?
どうにもすることができない本当にわずかな時間、それだけが頭を過ぎりました。


いざ衝突!という時、カービーは顔にものすごい風圧を感じました。それと同時に鼻をつく獣の匂い。


ライトを正面から向けたのが功を奏したのか、カモシカと思われる巨大な動物はカービーをわずかにかすめると、勢い余って崖に転落していったのです。何ともいえない、表現しづらい断末魔を残して。


あまりの衝撃にその場を動けないカービー。とりあえず一命を取り留めることができたようです。

しばらくして、どうにか気を落ち着けるとおとなしく山を下り、(下りても山ですが)小屋へ戻ることとしました。

落ちていったカモシカの行方も食糧として気になりますが、月明かり程度では、崖下は確認できません。とにかく今はこの場に留まっていても良いことなんて何もありません。



翌日、明るくなってから探索をしたところ、崖下には手負いながらもどこかに逃げたのでしょうか、カモシカの姿はどこにも見あたりませんでした。


冬越えのための貴重な食糧を逃してしまったことより、とりあえず生き残れたことに感謝しなければなりません。カモシカはともかく、カービーがあの高さから落ちて無事ということもなかったでしょうから。


カービーは今回の事を通して、「狩り」とは狩られる側に回ることと紙一重の差だということを学びました。間違ったことがあれば、いつ山に狩られてしまうかわかったもんではありません。

今回のカモシカですら、場合によってはあれだけの驚異となるのです。とてもではありませんが、「熊切り」は断念せざるを得ません。




しかし、この山において希望や目標を失っては生きていけないことを知っているカービーは、次なる目標を設定し行動に移すこととしました。


それは、例の先輩が残した不思議ノートに書いてある一節が原因でした。



つづく