キャンパスライフ 第7話 




狩猟型から農耕型へ。

シイタケが定期的に採れるようになったことだけでなく、以前からそのように考える機会はたくさんありました。

それは、ノザキさんの畑仕事のお手伝いをした時のことです。
労働力の対価として、米とバイト代をいただくことがありました。その金で生活に必要なものを購入するのですが、手っ取り早いところでカップラーメンを買うことが多く、栄養面・費用面でもそれは決して良い選択ではないとカービーも気づいていました。



そこでノザキさんに頼み、いくつかの苗と種と肥料を購入し、長い冬に備えての長期的な計画を実行することに決めるに至ったのです。
準備した苗及び種は、なす・だいこん・パセリ、ひまわり。

いやいや、なんでひまわりなんだよ。
つかさ、オレの夏休みの課題じゃないんだからもっと食えるもの育てろよ。


■ひまわりとオレ





幸い土木作業用の道具に加え、農耕具も充実していましたのでそれらには事を欠きませんでした。まずは植物が根を十分に生やすために開墾をしなければなりません。

手近な広さの土地なら小屋の近くにありますが、いかんせん大草原になっており、このままでは植えたものと雑草の区別がつかなくなってしまいます。

草刈りから始まり、鍬での地道な開墾作業。わずかな広さとは言え、種を植えるまでの手間は想像以上のものでした。
今まで誰の手も入っていない土地ですから、木だって、石だって、ミミズだって、オケラだってモロモロ出てきます。手がマメだらけになった頃、ようやく畑らしい形になってきました。

これで作物がぐいぐいと根を生やせるだけの環境は整いましたが、兼ねてからの懸案事項として「水問題」があり、作物を育てるにあたっては第一に解決しなければなりませんでした。


というのも、随分前にカップラーメンの件で説明したかもしれませんが、小屋には水道が来ておりませんので、水を汲みに川まで足を運ばねばならないのです。

しかし、この道のりが曲がりくねった林道をしばらく登らなければならず、車もないカービーにしてみれば一度に運べる量も限られていました。



そこで、カービーは考えました。
川には水を汲みに行くほか、貴重なタンパク質とビタミンを補給するため川魚を捕らえるという重要な役割があります。何かと忙しいカービーにとってネックなのは「回り道しなければならない」ということになりますので、それに対する解決策は「近道を造る」ということに他なりません。




そして、カービーは本当に一人で、小屋から川の近くの林道までショートカットするための階段を作り上げてしまいました。
さらに驚くべきことは、「水を汲みに行くのが面倒くさいから」という理由で水道管まで併設してしまったことです。

いくら小屋に塩ビパイプやチェーンソーが在ったからとは言え、それを実行できる人間はそうはいないでしょう。

【カービー水道】と【カービー階段】の完成により、作業効率がグッと上がるとともに、作物もぐんぐんと育っていきました。なんかカービーの生活を見ていると人間の進化の歴史を見ている心境です。








そして、何かを育てるという感覚は今まで殺伐とした生活を続けてきたカービーにとって新鮮なものでした。手間をかければかけただけ美味しく育ってくれる、それはもしかしらた美術に通ずるものがあったのかもしれません。もっとも相変わらず絵を描く暇はまったくなかったそうですが。

しかし、順調に進んでいる時こそ落とし穴という存在を忘れてはなりません。

ある朝、畑の様子を見に行くと様子がおかしい。ところどころ、畑が荒らされているのです。普段から野菜の苗ごとに名前をつけて愛でるくらいに面倒を見ているのです、気づかないはずがありません。




現場から推測するに、やはり、事の犯人は野生動物しか考えられません。もとより、半径10qくらいは人間なんて住んでいないのですが。
その後、怒りに燃えるカービーはまわりに柵やロープを貼ったりと色々工夫を凝らしますが、いかんせん効果が薄く、少しずつ着実に畑に被害が出ていました。そして、その畑荒らしの正体がわかるまでにそう時間はかかりませんでした。

以前から山の中で見かけることはありましたが、小さく俊敏かつ知恵の働く動物・・・つまり、猿です。

しかし、その猿が畑に侵入するのを見かけたとしても、野生の猿の動きは目で追うのがやっとでとても捕らえることなんてできやしません。日光のいろは坂あたりで人から餌をもらっているような猿を想像していたら怪我します。もれなく血もみれます。




オレの体験談ですが、森の中で烏骨鶏を6匹捕獲した時のことです。たかが鶏風情がー!とタカを2重も3重もくくって臨んで痛い目みました。場所が森だの山だの遮蔽物の多いところではなおさらです。結局、友人の手とかなりの大仕掛けや網が必要となったのですが、それが野生の猿ともなると、その比ではないでしょう。

カービーは困るに果て、ノザキさんにヘルプを出しました。ノザキさんも地元農家として、ここほどじゃないにしても野生動物の襲撃にはきっと苦慮してきた歴史があるはずです。さぁ、先人の知恵プリーズ!

すると、ノザキさんは「2,3日待ってて」とだけ言うと颯爽と帰ってしまいました。

まさかノザキさんは、この2,3日の間にとんでもない秘密兵器を持ってくるのでは!もしかしたら、鉄条網電流爆破デスマッチみたいな畑にして、猿どもを丸焦げにしてやるつもりでは!しかし、カービーとしても、生き物は食べるために殺すのであって、無闇な殺生は望むところではありません。
もしノザキさんが電流爆破装置を持ち込もうとしたなら、山の守人として全力で阻止しなければなりません。うん。絶対持ってこねぇ。




それから、2日目の朝。




朝、起きると同時に茶色い犬と目が合いました。

小屋のすぐ近くの木に結びつけられた雑種と思われる中型犬がカービーの方をじっと見てます。いくら大自然が偉大とはいえ、さすがに犬は自然発生しないはずです。

恐る恐る犬に水と食料を与えていると、ノザキさんが畑仕事帰りに小屋にやってきました。

なになになんなの!この犬!

「村にいた野良犬を捕まえてきたの」

ノザキさんの説明では、最近村に居着いた野良犬がいたので猿除けに使えるだろう、と捕まえてきてくれたそうです。
えー、それって本当に効果あるんですかー?と疑い半分で犬を飼い始めました。しかし、現在のカービーの食糧事情は都会で飼われている犬以上に逼迫しています。そんな粗食のカービーが犬を飼うということはある意味、大事件です。果たしてそれだけのリスク(自分のエサを犬に分けなければならないということ)を冒すだけのメリットがあるのでしょうか?


そんなカービーの不安は杞憂を終わりました。
犬を飼い始めた途端にぴたりと猿が近寄らなくなり、畑の被害がぐんと減ったのです。

本当に「犬猿の仲」ってあるんだ、と感心するのも束の間、また猿が畑に現れました。

ここから猿と犬とカービーのイタチごっこが始まります。

猿も知恵をつけまして、犬がどんなに凄んでいても繋がれている以上恐るるに足りないと気づいたのでしょう。犬をあざ笑うかのように悠々と畑に進入してきます。

しかたがないので、カービーも犬の綱を解き、「行け!ヤツのタマを食いちぎってやれ!」とスタンド・バイ・ミーの名台詞を叫びながら猿にけしかけます。

猿は脱兎の如く、散り散りになって山に逃げていきます、猿なのに。

しかし、この効果も長くは続きません。
しばらく犬を放し飼いにしていると、のそーっと猿が畑に近づいてくるではありませんか。そんなにタマを食いちぎられたいのか!とばかりに犬をけしかけるのですが、恐ろしいことにそれは囮部隊なのです。

犬が囮部隊を追いかけている最中に、本隊が悠々と作物を荒らしに来るのです。げに恐ろしきは動物の本能!

ナレーターをつければ十分に『動物奇想天外』のオンエアに耐えられる代物がカービーの目の前で繰り広げられています。これが本当にテレビでの出来事なら「動物ってすごいねぇー」なんて言いながらのんきにウィンナーでもかじってればいいんです。

しかし、眼前の出来事を見過ごすことは、カービーの生死にダイレクトに関わってくるのです。ウィンナー返せ!
もちろん犬は囮猿を追いかけたまま戻ってきません。そして、目の前で猿たちに無惨に食われる食糧たち。


このままでは【カービー農園】が【カビゴロウさんの動物王国】になってしまいます。しかもこの場合、カビゴロウさんの命令を動物は一切聞きません。イニシアチブは常に猿に取られ、野菜の残り物のみがカビゴロウさんに与えられるシステムとなります。

こうなってしまっては人間の尊厳もへったくれもあったもんではありません。


…プチーン

カービーの中で何かが切れる音がしました。

気づいたときには、ただ無茶苦茶に棒きれを持って猿を追いかけ回しているのでした、猿を食うために。







つづく