キャンパスライフ 第3話 





第3話 


山ごもり1週間目にしてようやく話が見えてきました。


これから、カービーはこのアトリエ(ボロ小屋)で、いい加減な講師(エアインチョコ)の指導のもと、この山で【環境芸術】という聞いたことのないジャンルを確立していくらしいです。

そして、この講師についてですが、専門は油絵で東京の美術大学からカービーの所属する学校へ客員教授として招かれているそうです。

そもそも環境芸術ってなんだという話になりますが、本当のところはその場その場にある自然物を使用して表現するアートらしいのですが、この先生がいうには「アートとは小手先で描くものではなく、自分の体験してきたことの集大成であり、経験なくして良い物を描けるはずもない。君のような才能のある人間はこういった場所で五感を研ぎ澄ますべきなんだ」と至極最もらしいことを言います。

そして、これからここで生活することは、【ワークショップ】と呼ばれる授業の一環である、と。

言っていることはわからんでもありませんが、この山で暮らしていく上での援助はほぼなし。食べ物は現地調達が原則です。(実は食べ物以外でちょっとだけ援助があるのですが、それはまた別のお話で)


人間食べ物がないことには始まりませんので、食べ物を探しに行くことが最優先事項であり、この場で絵なんか描いている暇なんぞないわけです。それでも教授が来るってのであれば、授業のひとつも受けてやらないと申し訳ないと思うのが普通なんでしょうが、この講師がまた変わっていて何一つ授業をしないんです。

ヘタに「あの〜授業は・・・」なんて聞こうもんならブチ切れられるわけです。


  


もうアンタ何しに来てるんだよ、と。


で、この講師のやることと言えば、何かの昆虫を取ったり、野生の草花を観察したりと日がな一日ぼけーっと遊んでいます。お前はファーブルかよ。なお、この教授は通いでこの秘境まで来ており、山の麓にアパートだか何かを借りているそうです。で、週に3日来たらまた3日来ないといったようなサイクルで訪れては、自分で用意した食料をモソモソ食いながら、「いいねぇこういうところで暮らせて…」とかいうそうです。どの口がそういうこと言うんだ。 一人だけ加工物食いやがって!完全にバカンス気分ですよ、この人。


カービーもいつしかこの講師のことを気にするのを止めました。関わり合いになるだけ腹が減るというものです。

体なんて動かせば動かすほど腹が減るわけでして、ノザキさんからもらうだけの量では到底足りません。よく「山は食材の宝庫」なんて言いますが、それは食べられるものとそうでないものの見分けがつく方の視点でしかありません。
今まで炊事洗濯の類をほとんどやってこなかったカービーに取って、それらの見分け方及び調理方法なんてものがわかるはずもなく、そこらへんに生えている葉っぱを煮出して食おうとする始末です。

      


それを聞いたときは「もしかして、お茶みたいになるんじゃないか?」と思いましたが、そんな適当にちぎってきたものが美味いはずがありません。

しかし、カービーは言います。


「空腹が一番辛い、腹が痛くなってもいいから何か口に入れたいんだ」


とても現代の日本で聞いたインタビューとは思えません。

当然、そんなカービーセレクトの食べ物が美味いはずもなく、モノによっては腹を壊すこともあったそうです。しかし、【空腹>腹痛】という図式が成立している以上、その方が良いそうです。うーん、極限状態。

こんな生活が続くくらいなら山を下りた方がマシだろう、と提案したのですが、またカービーの考え方もおかしいんです。

「今、降りたら負けだと思った」と。

下手したら死ぬような状況であっても、どんなに学校がむかついても、その一心で粘ったそうです。いつしか事態は好転するだろうと信じて。

      

他にも地元にしがらみがあって、少し距離を取っておきたいというのです。それは例の新聞沙汰の話ですな。

そんなわけで、これからもカービーの山ライフが続いていくわけですが、途中気になるキーワードが出てきたと思います。それは「音楽科の生徒が来るはずなんだけど・・・」と講師が言い残した言葉です。


その真相は約一ヶ月後に訪れました。

一ヶ月も経つとカービーのスーツはもうその原型を止めず、半袖半ズボンの超省エネスーツと成り果てていました。ファッションのポイントは「ひたすら動きやすいこと」これに限ります。だから、夏が近づくにつれ服は軽量化のために切り落としてしまうのだそうです。そして靴はゴム長靴。森だの川だのと障害物が多い山の中ではゴム長靴が最強です。濡れず破れず傷つかず、もう今までの靴なんか履けません。ラブ長靴。

        


もうしばらく講師以外の人間にも会ってませんから、恰好なんて何を気にするはずもありません。時間が経つにつれ、先祖帰りを起こしているんじゃないかというほどの様相を呈してきました。ほぼ野人。

そんな生活のサイクルに慣れてきたころ、ボロロロロロ・・・と見慣れない車がやってきました。いよいよ迎えが来たのか!山を下りられるのか!期待を込めた視線を車に投げかけます。


ガチャリ


降りてきたのはガタイのいい若い男。とても講師には見えませんが、ここに来ると言えば学校の関係者しかいません。


「…どーも・・・」


男はカービーの姿を認めると静かにそう言いました。



1時間経過。最初の「・・・どーも」以外に若い男は何も喋りません。


       


気まずい沈黙が続きます。当然、カービーも何か話しかけるのですが、完全な一方通行でしかありません。キャッチボールしたいのに相手は棒立ちなわけです。

そうこうするうちに例の講師がバイクでやってきました。


「・・・あー!シゲタくん!?」


その若い男を指差し、講師はそう言いました。
誰ですか?と聞くと講師は彼の紹介を始めてくれました。


彼の名前はシゲタくん(仮名)。例の音楽科の特待生とは彼のことでした。年は20代半ば。とにかく実家が金持ちらしく、車はもちろんのこと身につけているものも良いモノばかりです。


同じ特待生枠で入ったにも関わらず、今日のこの日まで山に登校して来ず、フラリとやってきたようなのです。そして、カービーとは比較するのが気の毒になるくらい待遇に格差がありました。


まず彼の場合、自由に家に帰れることができます。あー、暗くなってきたなぁとか、あー今日は腹の調子が悪いなぁなんて思えば家に帰れるわけです。もう何だか裏に汚い大人の関係性がちらっほら見えてるんですけど。

で、気が向いた時に来て、トランペットだか何だかを山の中で吹いていたかと思うと持ってきた食料(加工物)を食っています。で、見かけないなぁと思うと、釣りの本を読んでいたそうです。お前もバカンスか!



でもたまに、夜釣りでアジとかイカを持ってきてくれるので、嫌いになれないんです。







つづく





カービーのまじめなブランドです・・・「麻覇王」