キャンパスライフ 第1話 



■友人に「麻覇王」というブランド名でガラスアートをするカービーという友人がいます。

彼の作るガラスのアクセサリーはオレのお気に入りで、外出の際には必ずと言っていいほど身につけています。その作品はガラスの中に花やクラゲ等、ユーモアに富んだデザインが練り込まれており、県内では多くの雑貨店で見かけることができます。
しかし、作品が女性の人気を集めているとは言え、愛称の「カービー」という名前からは想像できないほどに強面フェイスをしており、初対面なら目線を合わさずに立ち去るであろうこと風の如しです。

    



ヒゲを三つ編みにしたり、ヒゲにエクステつけたりと顔面やりたい放題の彼ですが、見た目とは裏腹に低姿勢かつ丁寧な言葉使いを身上としており、年も同じということもあり、出会ってすぐに仲良くなり現在に至ります。

そんな彼の噂話を他の友人から聞くとき、必ずと言っていいほどに女性絡みのネタが出てきます。皆の話を統合すると「カービーはすごくもてる!」ということが浮き彫りになるのですが、女性受けする繊細な作品を作っているのを差し引いてもオレにはそれが信じられませんでした。




顔のことでとやかく言える立場にはないのですが、カービーの場合、どう足掻いてもジャニーズではなく悪役商会向きであり、その点に関しては推薦状を書いていいと思っていました。

     


一体、世の女性達は彼に何を見ているのか?
その一点が気になりかけた頃、また別の友人から彼の面白い噂話を耳にしたのです。

その噂話とは「カービーは学生の頃、山に監禁されていたらしい」というものでした。

山に監禁されたことと女性にもてるということに何の関係性があるのかわかりませんが、一男子として、それを確かめずにはおれません。早速、彼に連絡を取り、当時の話を聞いてみることにしたのです。

ここで、しばらくは溺詩特別版として彼の体験談を掲載していきたいと思います。




ここで、話はカービーが18歳の頃に戻ります。

当時の彼はガラスアートにまだ目覚めておらず、学校が終わってから絵の先生のもとに足繁く通い、デッサンに打ち込む高校生でした。

そして、受験シーズンの到来。
カービーは大学や展示会等いろんなところに出向き、絵の持ち込みを始めました。 彼なりに少しでも目立とうと考え、持ち込み用の絵には宗教色の強いものを持っていったそうです。マグリットとかのような岩が浮いている絵であったり、馬が飛んでいる絵であったりと超常的な絵が主でした。
           

そんな彼の思惑が当たったのか当時、多摩美のデッサン会に参加した際にはかなりの評価を得て、いつしか講師陣にも評判となっていました。

そんな折り、距離的に近い美術学校の目に留まり、特待生ということで入学を持ちかけられました。
しかし、宗教色の強い絵も見てか、「こいつは本当に何かの宗教に入ってるんじゃないか?」と危険分子かどうかの身辺調査をされたほどに彼の画力は優れていたようなのです。

当人もお金の心配があり、東京の大学に通うことを憂慮していた時期のことでした。

ここで面白いのは、彼がこの学校始まって以来の特待生であるという点です。学校側の提案では、個人のアトリエを持たせてもらえる他に講師と一対一での授業という破格の待遇を用意するとのことでした。

つまりはヌードデッサンなどで他多数と一緒に書くのではなく、そのアトリエにモデルを招いて一人でデッサンできるということですか!?ヌードモデル独り占めですか!?はい、もうちょっとこんなポーズとって?とか自分の思うがままに注文付けたい放題なわけですよね!?ずるい!カービー、ずるい!と思うのはそういうデッサンをしたことのないオレの下世話な想像でしょうか?

    



やはり彼も人の子、特別扱いされて悪い気がするわけありません。 受験もするすると終了し、季節は桜咲く春。

その学校に進学を決めたカービーは晴れて入学式を迎えました。
200人近くの新入生とともに学校の講堂でその入学式は催され、まだスーツに着られている雰囲気の男女たちの名前が次々と呼び出されました。


「日本画科 ○○ ○○!」

「日本画科 ×× ×××!」


美術系の学校ですから、その科も日本画・洋画・音楽・インテリア…と多岐に渡ります。
そして、その科ごとに名前を呼ばれていくのですが、カービーの名前が一向に呼ばれません。
彼自身も何科に入るのか知らされていないため、いつ呼ばれるのかと耳を澄ませてその発表を聞いていました。
そして待つことしばらく、最後の最後におまけのように彼の名前が呼ばれたのです。本当に名前だけ。

   


もしかして学校始まって以来の特待生だから、そんじょそこいらのヤツらと一緒の科には入れられないのかな?くらいに思っていたことが悲劇の始まりでした。



「…カービーくん?こちらに来てください。」


入学式が終了すると、この学校の講師らしき人が声をかけてきました。説明も何もなく、シルバーとモスグリーンに塗られたパジェロに案内されるとそれに乗り込むよう言われました。

おいおい、初日から送迎つきかよ!とカービーは自分の厚遇と今後の学生生活に胸をときめかせました。



しかし、車は駅をさっそうと通過し、








自宅の方向を完全に無視し、








サクッと高速道路に乗ってしまいました。





「送迎」という選択肢は完全に打ち消え、普通の人なら行き先の一つも聞くものだと思いますが、彼の変なプライドが邪魔し、それを聞けないままに数時間が経ったのでした。



キキッ

車の止まる気配に目を覚ましたカービーに講師は降りろと伝えました。朦朧とした彼の視界には何も写りません。というか真っ暗で何も見えないのです。車のライトが照らす範囲だけが彼の世界でした。


寝ぼけ眼のままカービーが車を降りると、それを待っていたかのようにパジェロは動き出しました。パジェロは道を勢いよく道を下っていくと、車の音は森の木々に吸い込まれ、だんだんと聞こえなくなっていきました。

・・・置いていかれた?あまりにも非現実的な出来事に、そう判断するまでいくばくかの時間が必要でした。

いったいここはどこなのか?何の理由があって連れてこられたのか?その問いに答えてくれるものは何もありません。 視界に拡がるのは果てしない暗がりだけ。 ようやく目が闇に慣れてくると、すぐ近くに何かの小屋があることがわかりました。



もうこの小屋ってのが山姥でも住んでるんじゃないかってほどにボロボロらしいのですが、この暗がりの中、うかつに動いても待っているものは野生の獣と生命の危機だけです。


小屋には人の気配も明かりもありません。4月とはいえ、夜はかなりの冷え込みようで、暗くてほとんど見えないのにボロいというのだけはわかってしまうこの小屋に、入った途端に何かしらの呪いが自動的に発動しそうなこの小屋に、どうしても入らざるを得ない状況になっていました。

小屋には鍵がかかっておらず、中には容易に入ることできました。

「失礼しまーす・・・」

明らかに無人の小屋なのに、一応断りを入れるカービー。逆にこれで返事なんてされた日には気持ちよく失禁できます。


入って左手側の壁には何かの農機具でしょうか、刃物っぽいものがずらりと並んでおり、中にはチェーンソーまであるようです。もう映画見過ぎで変に想像力豊かな人であれば、ここは何かの拷問部屋で、オレはそのモルモットとして運び込まれたのではないかと勘違いしてしまうなシチュエーションです。





暗がりの中、辛うじて土間から畳につながる部分がわかるとそこに横になりました。
これからどうなるのか、これからどうしたらいいのか、不安は寒さとともに募りますが、朝までやれることは何もないようです。とりあえず難しいことは朝になったら考えよう、ともともとかなりの逆境と修羅場を経験している彼は体力を温存することに決め、眠りに入ることにしました。 タフだなぁ。




そして、朝。

その小屋から出て、真っ先に目に入ったものは広がる大草原。そして連なる山々。緑と空の色以外に見えるものは何もありません。

オレは本当にどこに連れて来られたんだろう・・・

スーツ姿に何の装備もないカービーは山々を前にただただ立ちすくむだけでした。






つづく