【フリークライマーへの道】 第4話 


友人のアドバイスもあり、おとなしく地味に10級からスタートすることにしました。

10級は比較的、まっすぐ上に行くだけのルートのようです。ホールドを5つ、6つ登るとアッという間にクリアしてしまいました。うーむ、拍子抜け。これで爪を割る奴の顔が見てみたい。(1ヶ月に1回くらいは見てます)


まぁ、そんなわけで10級はなんなくクリアー。
登りきった後に「このダボハゼがー!」と捨て台詞は忘れません。

つづいて9級。これもなんなくクリアー。この糸こんにゃくがー!


休まず8級。すかさずクリアー!このこんにゃくゼリーがー!


間髪入れず7級。さらりとクリアー!このビーフビイヨンがー!


多少7級で手こずった感はありましたが、クリアーしてしまえばあとは何とでも言えます。にしてもこうサクサクと進んでしまっては、捨て台詞のレパートリーが持ちません。あとは「このグレービーソースがー!」くらいしか残っていません。

しかし、もう何て形容すればいいのかな?指先とホールドのはまり具合。まるで生まれてくる前からこう指がかかるのがわかっているような吸い付き。きっと前世は…いやさきっと先祖は猿だったに違いない!

この調子だと、本日中に会員コースでないと満足できない体になってしまうのではないかしら?と余裕を持っての6級挑戦。


もうこの際だから、小指だけで登ってやろうか!?あーん!?

おっ!?何だ!?このホールドの配置は!
生意気な配置しやがってからに、このグレービーソースがー!とぶつくさ言いながら、かなり距離のある問題のホールドに左手を伸ばしました。








パッツーーーーーン!!!









・・・肩が外れるかと思った。
古傷兼ウィークポイントの左肩が唸りました、悪い意味で。
もうホント調子こいてすみませんでした。鼻をホールドに改造するんで勘弁してください。

もう肩が痛くて痛くて吐き気がします。そのまま5分くらいウロウロしてました。


一緒に来ている友人も同様に6級クリアーできずにヒィヒィ言ってました。



こんなかんじで。

彼の場合、他にもいろいろとスポーツをしているため、オレとは違い筋力が半端ありません。
ベンチプレスであれば100sは持ち上げる超人ハルクのような男なのです。もしくは先祖がゴリラ。

しかし、そんな友人(肌が緑色)ですら、この7級という壁にぶち当たっているのが現実です。彼としてもプライドがいたく傷ついているのだと思います。

このコースの最大の難点は『ホールドからホールドまでの距離が遠い』ということと『一部、ホールドが視認できない』ということです。実際の岩肌であればそういうこともあるでしょう。

いったいどうやってクリアしろってのよ!という文句が口をつきますが、逆にこの見えないボルダーを手探りで掴むという行為に妙な興奮を感じつつある自分がいました。




登り切れないまでも、こうガサガサと手探りしてガシッと掴んだ瞬間、何かリポビタンDのCMに自分が出ているかのような錯覚に陥ります。
ちょっとその酔いがピークはまれば、「おおーーーとっ!ケイスケ選手、仇敵と言っても過言ではないそのホールドに今指をかけたーーー!」とか、実況の声まで聞こえてくるような感覚を味わえます。






そして、落ちる瞬間まで自分に酔えます。




しかし、この酔いの原因…それは肩の痛みも和らぐくらいのこの上へ上へという欲望の源はマッチョメガネ(肌が緑色)に勝ちたいという一心からでした。

何よりフリークライミング経験者であり、ベンチプレス100sを持ち上げるこのオシャレメガネ(体毛が緑色)が苦戦しているこのコースを制覇する・・・この行為に興奮を覚えず、いつ興奮しろというのでしょうか。今さ!姉ちゃん!『いつか』って今さ!


肩に軽い痛みを覚えつつ、壁面にとりつきます。握力や筋肉疲労からしてチャレンジできるのはこれが最後でしょう。

今までだったら、何度となく手が届いた瞬間に体重を保持できず落ちていた部分がありました。それが今回に限っては確かな手応えを感じました。この一瞬の手応えがたまらん!


ググッともう片方の手をそのボルダーに移動し、さらに上を目指します。ゴールまでもうわずか。
残りのホールドを順調にこなすと、最後のホールドを両手で保持しゴール宣言。

「み、み、見たかぁーーーー!!!」

6級でこれだけ雄叫びあげる人も珍しいとは思います。


アドレナリンだとかドーパミンだとかの脳内麻薬的なものが耳から溢れ出るんじゃないかと思うほどの高揚感に酔いしれました。6級なのに。

           


そして、ぶら下がったままちらりと友人を見下ろしました。

「おめでとうございます」

そう言った友人(血液が緑色)の顔には言葉とは裏腹に、苦虫と仁丹とゴーヤをミックスして噛みつぶしたような表情が見て取れました。


スポーツやってる人なんて大抵負けず嫌いですから、友人(母ちゃんが緑色)もオレのようなもやしっ子群馬県代表に一本取られたままではいられないようです。
これからはしばらく一人で練習に来て、いつかオレの鼻をあかすと意気込んでいました。いつかっていつよ!


しかし、友人には大変申し訳ありませんが、3日後に5級をクリアしてしまいました。





【まとめ】

もし、大好きなあの子に「お願い!アタイ、あそこに咲いてるお花が欲しいの!」と懇願されたとしましょう。
そこが谷風吹きすさぶ断崖絶壁かもしれませんし。視界の効かない部分にその花が咲いているかもしれません。そんな時に備え、岩肌代わりにホールドを掴む練習をするのもそう悪くないかもしれません。


まぁ、本当に頼まれたら全力で断ると思いますが。





            完