お見合いパーティーに行ってきた  第1話





とある日のことでした。
外気が乾燥し、火事の起きやすいこの季節になると消防車が見回りに街を巡回することが多くなります。


その日はオレの運転で後輩2人を乗せての見回りでした。

会話の糸口にそれとなく、後部座席に乗るホストっぽい風貌を持つ後輩(ホストではありません)に質問を投げかけました。


「ホスト(あだ名)はさー、普段どんなことして遊んでんの?」



ホストは少し考えながら答えました。



「そうですねぇ。・・・オミパっすね!」



・・・お、オミパ?



  
若かかりし頃のアミバ様


いやいや、こんな遊びがあるはずもない。
病人や老人の経絡秘孔を突く遊びなんてありえない。



それくらいしかボケが思いつかないほどに日常生活において「オミパ」と聞いたことのない言葉でした。




話が進まないので素直に【オミパ】の意味をホストに聞き返してみました。



「【オミパ】ってのは【お見合いパーティー】の略ッスよ!」



さも当然のように言うホスト。イミダスに乗ってから得意そうに言えよ、この野郎。



しかし、この【お見合いパーティー】という言葉には非常に何かそそられる匂いがしてきます。危険かつゴージャスな香りがするのです。叶姉妹の右側みたいな匂いです。(嗅いだことありません)

その匂いを嗅ぎつけてか、隣に座っていた「お父さん」と呼ばれる24歳の青年も静かに身を乗り出してきました。


噂では聞いたことがありましたが、自分の周りで体験したことのある人間の話を聞くのは初めてのことでした。

お見合いパーティーとは、妙齢の男女が集まり、自己紹介からフリータイムを経て、カップルになるかどうかのせめぎ合いを楽しむ大人のゲームであるようです。そこまでは何となくわかるんだ。

そして、ホストの趣味は「お見合いパーティー」に行くことで、この近郊のみでなく県外にまでくまなく足を伸ばしている豪の者でした。それだけにホストの情報量は豊富で、かつ非常に魅力的なものでした。


「最高におもしろいッスよ!」


そう言い切る彼の目は、今までにないくらいの輝きを放っていました。「輝きは目元から」とはよく言ったものです。








そして、話を聞き終わると同時に「今度、連れていってください」と頼んでいるオレとお父さんがいました。

良い話のネタになると同時にやはり色々とチャレンジしてみたい年頃じゃないですか?

それにヤツのキラキラした目を見てたら・・・ねぇ?


















そして、当日。


約束の時間になっても待ち合わせ場所にお父さんが現れません。


一台の車で乗り合わせて行くため待ち合わせをしていたのですが、朝4時起きでワカサギ釣りに行ったお父さんだけが来ませんでした。
あれだけ鼻息をフゴフゴさせて楽しみにしていたのに。



そして遅れること15分。ようやくお父さんが現れました。



「遅れてすみません!」



バカ野郎!ここ戦場だったら死んでるぞ!とハートマン教官ばりに粛正してやろうと思っていたのですが、息を弾ませる彼の姿を見てその気が失せました。




ワカサギの鱗がついたニット帽。



ニット帽から出たやんちゃなもみあげ。



そして汚れたスニーカー。



穴の空いたジャージ。



胸には刺繍で「タモツ」。





    



「遅れてすんませんっした!」

お父さんは息を弾ませながらもう一度言いました。


しかし、彼の謝る部分は遅れてきたこと自体よりもジャージで来たことにあると思うのです。



仮にも「お見合い」という名を冠するパーティーに参加するってことは、多少なりとも身なりに気をつける必要があると考えていました。失礼があってはいけないから、当日はキレイ目な格好でまとめようという話になっておりました。

オレとホストは、細めのジャケットとコートにタイトジーンズを合わせた格好です。それなりにキレイ目な服装と言えるでしょう。




しかし、ジャージってなんだ。「タモツ」って誰だ。



「母方の爺ちゃんです!」



知らねぇよ!
で、なんで爺ちゃんの持ってきてんのよ!?



「爺ちゃんの軽トラから持ってきちゃいました!」



爺ちゃんの野良着を釣り用に使ってたわけね。
て、バカ!
着替えてくる時間もなかったのかよ!



「わかさぎの魚拓取ってたら遅くなっちゃいました!」



あんな小さい魚の魚拓取ってんじゃねぇっての!
あぁ、もうその格好の理由は大体わかったよ・・・。で、どれくらい釣れたのさ?



「爆釣ですよ!200匹です!すげぇでしょ!」



死ね!
だから着替える暇がなくなるんだよ!



「200匹の魚拓取っちゃいました!」



もう一回死ね!



こんな感じで車中では、ひたすらお父さんの話でもちきりでした。


お父さんは最初にも書きましたが24歳です。
しかし、かろうじて肌年齢で若さを識別できるくらいのもので、一緒にいる同い年のホストと比べても遙かに老けて見えます。


しかし、今日の格好は、お父さんの老け具合にターボ装置とニトロを装備した上でタバスコをぶち込んだかのごとく拍車をかけていました。
大体、こういうとこにそういう格好で来るのは、「釣りバカ」の西田敏之かお前ぐらいだぞ。


確かに男は外見ではありません。
大事なのは内面で服装なんて二の次のはずなんです、本来は。

しかし、ひいき目に見ても女性達がこのタモツジャージを構ってくれるとは思えません。空気のような存在としてパーティーを生き抜くのはあまりにも酷ってもんです。

このまま放置しておくと、部屋の片隅で雑草とか抜き始めるかもしれない。

それならいっそのことお父さんを【ダメキャラ】として売りだし、女性の母性本能をくすぐる作戦でいこうではないか、という話になりました。
というか、こんな面白いヤツを放っておく手はありません。





ああいう場ですから、きっと女性は男性以上に不安な気持ちを抱えているかもしれません。

「あー、友達に連れてこられとは言え、こんなトコ来ちゃった・・・どうしよう、何話せばいいんだろ?」

とか思ってるかもしれません。

そんな時こそ、軽快かつ小粋な自己紹介で女性のハートをがっしり支えてあげることは男性の本分と言えましょう。



で、お父さんの自己紹介はかの有名なフレーズで決定。









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 =ニ二::::::::::::::::|6    \___/、| -──`
    ‐=.二;;;;;`‐t    \/  ノ       


     オッス!オラ32歳無職童貞!
     将来がやべえ状態だってのに
     なんだかすっげえワクワクしてきたぞ!




わぁ、超クール!


これで女性の心は鷲掴みです。
むしろ本当に胸を鷲掴みしてセクハラで訴えられる勢いを感じます。うん、最高。
で、付け足しでニックネームは「孔雀王」。
将来の夢は「3分間クッキング」に出演して、5分間かけて料理を完成させることです!とでも言っておけばもう完璧だと思う。多分、押印のうえ婚姻届と両親を持参してくると思う。





しかし、お父さんはオレとホストの考えたキャラクター像を「そんなのできないッスよ!」と完全否定します。
この野郎、生意気言いやがって。


そうは言っても、彼が【たもつジャージ】である現実に変わりはなく、ジャージ姿で来ている女性がいて、「あー、やっぱりジャージが一番心やすらぐよねぇ〜」とか盛り上がるわけもなく。彼の置かれた状況はひたすら厳しいものと思われました。




それに悪のりし、オレとホストはしきりにお父さんは不安にさせるような言葉を並べ立てます。



「釣ってきたわかさぎをその場で天ぷらにして女に振る舞え。」



「いや、わかさぎを手づかみで女にプレゼントしろ。で、『どや?ピチピチしてるやろ?』って聞け。」



「嫌がったら無理矢理ポケットにわかさぎを入れろ。」



「いや、マジで魚臭いんで、近くに寄らないでもらえますか。」



「友人と思われたくないんで、そういう設定で話しかけてもらえますか。」





ここまで言われてようやく、お父さんも自分の現状に不安を感じてきたようです。

後部座席のオレをチラチラ見ては、不安そうに懇願してきました。






「時間あったらユニクロ寄ってくださいっ!ジャケット買ってくるから!」



               




というか、こいつのイレギュラーっぷりをジャケットなんかに邪魔させるわけにはいきません。

つまり答えはNOだ。


タモツジャージとホストとヒゲの3人は一路会場へと急ぎました。







つづく