「奇妙な同棲生活」 第3話







家出少女との生活も数日が過ぎ去りました。


彼女は相変わらずゴロゴロとし、気ままな一日をオレの部屋で過ごします。
たまにフラッと出ていきますが、その時間は短く、少しすると帰ってジュースを飲んでいます。近くのコンビニにでも行っているのでしょう。


そうして、一日の大半はオレの借りてきた映画のビデオを見たり、大して身もない話を延々と話し続けたり、友人が遊びに来ると3人で夕食に行くことなどもありました。
そのうちに、事の張本人も様子見に遊びに来ることもありました。いまさら彼を攻めても始まらないので、いつもどおりにゲームなどをやって過ごしました。いつまでもいがみ合うのはオレも嫌だし、こうやって仲直りできたことはありがたいものでした。何なら彼女を引き取っていただけるとなおありがたい。



まぁしかし当初考えてたような騒々しさはまったくなく、ただただ静かに時間は流れていきました。


6畳の部屋に布団を二つ敷くとそれはもう狭苦しい感じですが、もともとは7畳半に3人で住む環境に慣らされていたおかげもあり、居たら居たでうざったいけど、それほど苦にならなくなっていました。

当初はそりゃもう、いつもいるし、布団敷きっぱなしで掃除もできないしで、寝ているところをテンプル(こめかみ)狙ってトゥーキックでも炸裂させたい気持ちでいっぱいでしたが、人間は環境に慣れる動物だということですよね。
メシを二人分作るのも、二人分の洗濯物を洗うのもそれなりに慣れるまでそう時間はかかりませんでした。







手慣れた洗濯風景








そんなある日の朝。

寒さのため眠りが少し浅くなっていて、冷たくなった足のやり場を探し布団の中でもぞもぞしていると、ふいに彼女の声がしました。


「雪だ!」


眠い目をこすりつつ時計を見るともう朝の5時を過ぎており、そろそろ起きなければならない時間になっていました。


そして、白く光る窓に目をやると、彼女は窓に貼りつき目をキラキラさせていました。オレが起きたことに気づくとこちらを見ながら少し上気した感じに言いました。


「見て!雪が降ってるよ!」


彼女はそう言った後、窓を開け、洗濯物を干すために設けられた畳2畳ほどのスペースに積もった雪を手にすくいます。


「うわ!冷たい!」


冷たい外気が部屋に入り込み、芯がぼんやりしていたオレの目を強引に覚ましました。
そして、雪を見て子供のようにはしゃぐ彼女の姿を見つめながら、半開きの口から「おう」とだけ言葉を発しました。


「テンション低ぅー。」


「・・・アホか、オレは起き抜けだぞ。」


起き抜けに裸足で雪ん中駆け出すようなテンションにはとてももってはいけないものの、ちょっとだけ、ちょっとだけですけど雪と戯れる彼女を見た時に胸が高鳴ったことは言えませんでした。





そんなことはお首にも出さず、いつもより少し厚着をして朝練に出かけました。雪が降ろうが、雨が降ろうが、オレの朝練というスケジュールには変更はないからです。

本来、寒さに人一倍弱いオレにとってウィンタースポーツでもやらない限り雪なんて天敵でしかありません。寒いし、すべるし、こけるし、溝に落ちるし、灯油切れるし。
それでもこの日は何となく雪に対しての気持ちがちょっとだけ和らいだように感じた朝だったのかもしれません。








そして、その日の夜の出来事でした。


朝の早いオレは布団に入る時刻もかなり早く、午前0時くらいになると前後不覚に陥り、それを過ぎると気を失うように寝てしまいます。
しかし、彼女が来てからというもののオレの就寝時刻は確実に遅くなっており、この雪が降った日も多分12時を少し回っていたくらいまでテレビを見ていました。

体を動かし続け、一日を終えたオレにとってこの時刻はもう危険地帯です。ドラクエだったらレベル上げしながら寝れる。
意識が完全に向こう側になりかける前に彼女に「もう寝ようぜ」と告げました。別に無理に彼女を寝かしつける必要性はないのですが、この小さい部屋では蛍光灯があまりにも眩しすぎるのです。


「んじゃ、消すぞ。」


確認の声をかけ、蛍光灯を落としました。


電気を消すと、街灯の明かりが少しだけ部屋にさしかかり、暗闇にうっすらと家具を照らし出します。


普段ならのび太くんと世界選抜を闘い、最終的にはしづかちゃんを奪取するほど寝つきの良いオレですが、この日に限って足がなかなか暖まらずいつまでも布団の中でモゾモゾとしていました。


「・・・・・・。」


壁に向かって寝るオレの背後で彼女が寝返りをうった気配を感じました。寒さで彼女も寝つけないのでしょうか。いつもオレの方が早く寝るせいか彼女のそういう動きを感じるのも初めてでした。


どうにか寝ようと必死になって布団の中で足を擦りあわせていると、背後から声があがりました。



「・・・・・・ねぇ、・・・・起きてる?」


オレがようやく聞き取れるような声でした。


「・・・・あぁ、・・・起きてるよ。」


急に声をかけられた驚きを隠すようにゆっくりとオレは言いました。



彼女から次の言葉が発せられるまで少しだけ時間がかかりました。













「・・・・・・・しないの?」

彼女は一言そう訊ねました。






ついに来たか。

うすうす考えてはいましたが、彼女は今日この日まで友人宅などをうろついてきたのです。もしかしたら、男友達だったり、声をかけてきた男の家にも泊まることもあったかもしれません。その時に普通の流れで関係を持つことも十分に考えられます。いや、あったと仮定するほうがより現実的でしょう。


ただ、オレの場合、ちょっと普通と違う流れで彼女を泊めています。もし普通の出会いをして、その結果彼女を泊めていたのであれば間違いなくオレはこの日を待たずに関係していたことでしょう。いや即日だったかもしれん。

でも、このケースはあまりにも違います。
それに今、彼女に手を出すことは彼女自身の「引け目」に乗じたものとなってしまうことだとも感じていました。友人の「いいじゃん、やっちゃえよ!」という言葉が余計にそう思わせていたのかもしれません。


そのため、普段下ネタをふんだんに盛り込んだトークを得意とするお下劣パテシィエと呼ばれた(呼ばれてません)このオレが、その手の話は極力遠ざけていたのもそのためでした。

そして、今のような話になっても「NO!」とヒステリックな外人ばりに(ユタ州をバカにされたケント=デリカットを目標に)ぶち切れる覚悟ではいましたが、いざこういう事態になるとどうにも言葉が出てきませんでした。




そして口をついた言葉はこんなもんでした。



「・・・・しねぇよ。何言ってんだよ?」



かなりつっけんどんで突き放した言い方だったと思います。





「それにオレ・・・ゲイだしな。そもそも女に興味ねぇのよ・・・。」






勢い余ってとんでもないことを言いながらも、心の中で「本当は女の子がダイスケ・・・いや、大好きです!大好物です!」と絶叫をしていました。きっとこの想いと叫びは海を越え、遠くの国に住むあの子(パリジェンヌ)に届いたことでしょう。深い意味はありません。









「・・・・・・・・ん、そう・・・・。」



そう小さく呟くと彼女は「おやすみ」と言いました。



それ以上の会話はなく、オレも焦りから早くなった鼓動が静まるといつしか眠りについてしまいました。















翌日、学校から帰ってくると、彼女はこの部屋からいなくなっていました。自分の荷物をそのままに。




きのう降った雪はもう解けて消えていました。






つづく