「奇妙な同棲生活」



11月も終わりに近づき、季節はいよいよ冬へと移ろっていきます。
この寒さで体調を崩されているかたもいらっしゃるでしょう。オレも血を吐きました。今年の冬は何事もなければ良いなぁとジジィみたいなことに思い馳せているわけです。寒さで死ななければいいなぁって。

そして、ライト片手に灯油をストーブのタンクに入れながら、自分の白い息を見つめ、数年前のある冬に起きた出来事を思い出しました。




それは大学生の時でした。
季節はすっかり冬で夜になるとそれはもう厳しい冷え込みようでした。
当時学生寮からアパートに引っ越していたばかりのオレはにとって暖房器具は石油ストーブ一つだけで、これだけがこの冬を乗り越えるためのマストアイテムとなっていました。


そんなある日の夜、ふいに部屋に香る灯油の匂いでストーブの燃料が切れたことに気づきました。
石油ストーブが夜中に切れるってのは本当にタイミングが悪いことで、外に給油しに行くのがたまらなく嫌でした。しかし、そのまま寝てしまうにはまだ早く、仕方なく灯油を入れていたその時、オレの携帯電話が鳴りました。


着信は近所に住む友人からのものでした。
友人とは家が少し離れたとこにありましたが、ちょくちょくお互いの部屋を訪ね合うような仲でした。


「・・・もしもし?」正直寒い、臭いということもあって少々不機嫌そうな声で電話に出ると、友人はバツが悪そうな声で話し始めました。


「女の子を家に泊めてやってくれ」


唐突に彼は核心に触れました。一体何がどうなってそういう話になるのか、単なる聞き違いなのかわけがわかりません。しかし、もう一度聞くと彼は確かにそう言います。


それでも意味がわからず、「何で?」と素直に理由を問いただしました。


事の経緯は1週間前、友人が街でナンパを、ガールハンティングをしていたことから始まります。
友人は何回かの失敗を重ね、ついに二人組の女の子たちと仲良くなり、携帯電話の番号を交換しあったそうです。

そして今日になって、一人の女の子から「泊めて欲しい」という電話が友人のもとにあったようなのです。







電話切ろうかと思った。
自慢話したいだけか?
勝手に暖房入らずで暖めあってろ!と焼け死ね!と悪態をつくところですが、事態は少々違いました。


つまり彼には恋人が、ステディがいたのです。そしてこの日、彼の部屋に彼女がすでに遊びに来ており、もうすでに暖房入らずな感じになっているのだそうです。うん、ほんと焼け死んだらいい。何なら灯油を分けてあげてもいい。
そんな状態のため、とてもではないけれども女の子を泊めてあげるわけにはいかず、彼女のいないオレに白羽の矢を立てたようでした。

「なっ!頼むよ!今もこうして電話してるのがまずいんだって!」

知ったことか、そんなもん。
なんでオレが幸せイッパイのお前の尻ぬぐいをしてやらにゃならんのだ?しかも二人が付き合うきっかけになった理由を言ってみろっての。うん、誰のおかげですか?って話ですよ。オレだって最初お前の彼女カワイイなって思ってたっつーの!言っててちょっと泣けてきたっつーの!はっきり言ってやるよ、そんなわけのわからん女は適当な理由をつけて追い返せ!


しかし、友人は「それは無理」と言います。すでに住んでいる場所を教えているため、放っておけば来てしまうかもしれないと言い出しました。アホか。どんだけプレイボーイなのかと。もっと別の形で紹介しろっての。


「手が灯油くさいから女なんて呼べない」と断っても、「頼むよ!こんなことお前にしか頼めないんだよ!ホント、今晩だけだから!」と食い下がる彼にいい加減辟易し、ついに折れてしまいました。

今晩だけだぞ、と念を押し、仕方なくも駅まで迎えに行くこととしました。





駅につくとベンチに腰掛けている女性が一人いました。
完全にギャル。すぐにでも凶器に早変わりしそうなすごいヒールを履いている。カワイイ子かもしれんが、ちょいとオレの苦手なタイプだ。まさかあれではないと思うけど、友人は派手好きだからなぁ・・・。


まぁ考えても、女の子の携帯番号はすでに聞いているし、こちらから連絡を取るしかないんですよね。ベンチに腰掛け、少し間を空けた後、携帯を手に取りコールしてみました。




チャラララ〜〜〜〜


すっごい近くから聞こえてくる浜崎あゆみか何かの曲っぽい着信音。横を向くとやっぱりギャルから聞こえてくる。やっぱりそうなんだ。
そして向こうが電話に出るまえに相手を威嚇しないようゆっくりと話しかけました。

女の子もこちらの行動を見ていたようで、冷え込みの厳しくなった外気に白い息を吐き出しながら小さく「どうも」と言いました。
オレも「どうも」と小さく会釈を交わしました。



彼女の名前は「メグミ」。
それが本名かどうかわかりません。名字もわからないし、オレ自身聞く気もありませんでした。どうせ一晩だけだし。

いやに若く見える彼女は、少し大きなバッグを持ち、このクソ寒い中ミニスカートにヒールの高いブーツという出で立ちでした。マツゲとかすごく長い。(後につけまつげだということが判明)

こんなところで立ち話するのも命の危険(凍死等)に関わるので、駅前でホットコーヒーを2本買い、駅から10分ほどの家路を歩き出しました。


まったくわけのわからん女を泊めるのも嫌だし、道すがらそれとなく彼女の素性を聞いてみることにしました。


「何で泊めてくれって言いだしたん?終電でも無くしたのか?」

遠方の子であれば、この時間なら終電はもうありませんし、そういうことならと思い聞いてみると、












「んーん、家出してるからー」






コーヒー吹き出したわ。

少し間延びしたバカっぽいしゃべり方で、彼女はあっけらかんと答えました。「家出」って。初めて見たわ、家出少女。何それ食えんの?


出来るだけ平静を装い次の質問に移ります。コーヒーを口から垂らしながら冷静もクソもないのだけどもさ。




「・・・・年はいくつなん?」


彼女はオレの顔にへばりつく動揺の表情を楽しそうに見ながらこう言いました。








「17。」




鼻からコーヒー出たわ。すごい染みる。


「じゅ、17ぁ!?」


「そう。」


もう動揺とかむしろ全面に押し出した新米芸人みたいなリアクションしか取れませんよ。


「・・・・女子高生?」


「うん、女子高生。今は行ってないけど。」


ありえない。マジでありえない。家出中の女子高生がオレの家に転がり込んでくるとかそういう設定は三流エロビデオのシナリオとかだけで十分だから。きっと夢だ。酒を飲み過ぎて酔い潰れて見ている夢に過ぎないのだ。

しかし、口から垂らしたコーヒーが寒風に吹きすさび、えらく冷たく感じるこの感触が現実にオレを引き戻します。


そして、彼女はさらにわけのわからないことを言い出しました。






「これから2週間よろしくね!」





「は?」とすっとんきょうな返事しか出来ないオレはしばし呆然としました。歩くことすら忘れていたかもしれない。



2週間よろしくね?

言っている意味がさっぱり理解できない。言語が何語なんだかわからない。きっと直訳したら「オレ、オマエ、コロス」とかそんなのに違いない。きっとそうだ。




もう一度「・・・どういうこと?」と間の抜けた感じに聞いてみました。

すると彼女は少しだけ困ったような顔をしてこう言いました。








「えー?うっそ!友達から聞いてない?2週間は泊めてもらいたいって言ってOKもらってるんだけど。」







聞いてねぇ。まったく聞こえてこねぇよ。耳に入っても頭が理解しねぇよ、そんなもん。どんだけ脳内補完してやったらそう聞こえるんだか教えてくれ。


ただ理解できたのは、友人が一時逃れのためにとんでもないウソをついたってことだけ。オレを売ったってことだけ!



こうして、友人に静かな殺意を覚えつつも、彼女とオレの奇妙な同棲生活が始まったのでした。





つづく